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東京高等裁判所 昭和31年(ラ)955号 決定

理由

同一の所有者に属する建物とその敷地たる土地に対して同時に競売の申立があつた場合においては、競売裁判所としては、これを各別に競売することが債権者及び債務者の双方にとつて有利であると認められる場合、又はその土地、建物のいずれかを競売することによつて、各債権者に弁済をなし、執行費用を償うことができる場合の外は、建物の敷地たる土地とその地上建物とはこれらを一括して競売しなければならないものであるところ、本件における競売の目的物件は、抗告人所有の建物とその敷地たる土地との二個の不動産であるが、本件においてこれを各別に競売することが有利であると認むべき特別の事情はなく、且つ建物のみを競売することによつて各債権者に弁済をなし、執行費用を償うことができないことが記録上明白であるのに、原決定はこの点を看過し、建物のみについて競落許可の決定を為したのは違法の裁判であり、取り消さるべきものである。

また抗告人(債務者)は、本人競売の原因たる債務に関し、債権者との間に、債務者が本件不動産を任意処分してその代金で弁済するまで競売手続を猶予する旨の約定を得ていたのであるが、これを無視して行われた競売手続は違法であり、右違法の手続に基いてなされた本件競落許可決定も違法であるから取り消されるべきものであると述べた。

同一の所有者の所有に属する土地とその地上の建物の双方に対し強制競売の申立があつた場合これを一括して競売に付するか各別に競売に付するかは競売裁判所の任意に定め得るところであり、本件において原裁判所がこれを各別の競売に付したことが特に債務者たる抗告人の利益を害するものと認むべき特段の事情はみられない。建物の競落人がそれだけでは当然に建物をその地上において所有し得ないことは、抵当権の場合におけるいわゆる法定地上権のごとき制度のない以上明らかであるが、現に土地も競売に付されており、建物の競落人において自らこれを競落することもあり、また土地の競落人との合意により建物所有のため土地を使用する権利を取得することもあり得るところであるから、各別の競売の場合直ちに所有者債務者の不利益に帰すると解すべき理由はないのである。むしろ敷地使用の権利なき建物の価額が安くなるとすればその反面土地の価額は高くなるはずであり、土地と建物との同時競売を全体としてみれば結局において長短相補うものともいい得るのであるから、原審が本件を一括競売に付しなかつたことを攻撃する論旨は理由がない。

次に、債務者が競売開始決定後債権者から弁済の猶予を得たことは、当然には競落不許の事由となるものではなく、民事訴訟法第五百五十条第四に規定する証書を執行機関に提出してはじめてこれを考慮すべきものであるが、抗告人が右猶予を得たこと及び右証書を提出したことは、抗告人において何ら立証しないところであるから、これを認めることはできない。従つてこの主張も失当として排斥を免れない。

その他記録を調査しても原決定には何ら違法の点を発見することはできないから、本件抗告は理由がないとしてこれを棄却した。

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